大人のADHDとは
仕事でミスをたくさんしてしまう
約束を頻繁に忘れてしまう
集中力が続かず人の話が聞けない
会議中に落ち着かない・・・
以上のような不注意や多動といった症状で悩んでいる人は、大人のADHDの可能性があります。
大人のADHDチェックリスト
- 物事を行うにあたって、難所は乗り越えたのに、詰めが甘くて仕上げるのが困難だったことがよくある
- 計画性を要する作業を行なう際に、作業を順序だてるのが困難だったことがよくある
- 約束や、しなければならない用事を忘れたことがよくある
- じっくりと考える必要のある課題に取り掛かるのを避けたり、遅らせたりすることが頻繁にある
- 長時間座っていなければならない時に、手足をそわそわと動かしたり、もぞもぞしたりすることが頻繁にある
- まるで何かに駆り立てられるかのように過度に活動的になったり、何かせずにいられなくなることが頻繁にある
以上の項目に4つ以上当てはまる人は、ADHDの可能性が考えられます。お気軽に当クリニックにご相談下さい。
ADHDを患っている大人の方が社会で働きはじめると、様々なシーンで悩む事が多くなります。学生時代とは違い仕事においては、ミスや約束を忘れたりすることを繰り返してしまうと周囲から信頼を失ってしまいます。そのため自信を持つことができず、「自分の性格が悪いのでは」「自分のなまけでは」と自分を責めて辛くなります。
- 不注意やミスなどで上司や同僚から叱責されることが多く、周囲からの信頼が得られない
- 何気ない自分の発言で、周囲の人から非難されることが多い
こうしたお悩みをご相談されることも多くあります。
「大人のADHD」と呼んでいますが、実はADHDは、大人になってから発症するものではありません。ADHDは生まれながらのものですので、幼い時から不注意や多動があったはずです。
大人になる今まで、問題が生じないように本人・周囲が努力や工夫を重ねてこられた場合もありますし、繰り返し問題が生じ「やる気がない」「気持ちが足りない」「だらしない」など言われ続け、耐え続けてこられた場合もあります。
また、大人になると、物事をひとりで担うことが多くなり、物事に対する責任も大きくなります。そのような中で「頑張っているはずなのに周りの人よりも失敗が多い」、「頑張っているはずなのに周りの人のように物事ができない」ために自信がなくなり、気分が落ち込むことで心療内科・精神科を受診され、ADHDの存在が明らかになるという場合もあります。
ADHDとは
ADHD(注意欠陥・多動性障害)は、不注意、多動性、衝動性の3つの症状がみられる発達障害のことです。不注意、多動性、衝動性という3つの症状に、子どもの頃からずっと悩まされており、多くの人は自分なりの工夫や対策を考えて努力していますが、それにもかかわらず、状況が改善せず大人になり、生活に支障をきたしている人も多くいます。ADHDのある大人は、子どもの頃よりも困難が多いと感じることも多いようです。
その理由としては、
・親や教師のフォローがなくなる
・仕事や家庭でやることが多くなる
・大人としての行動や責任を求められる
など、周囲の環境の変化が大きいことが理由と考えられます。そのため、大人になってから社会生活を送るのが難しくなった、と感じるADHDの人が多くいます。
大人のADHDの症状
多動性
・落ち着かずにじっとしていられない
・貧乏ゆすりや机を指先で叩くなどのくせがやめられない
・会議中や仕事中に落ち着かず、そわそわしてしまう
・家事をしているのに、別のことに気を取られやすい
・おしゃべりに夢中になって家事を忘れてしまう
・自分のことばかりしゃべってしまう
・おしゃべりを始めると止まらない
衝動性
・思ったことをすぐに口にしてしまう
・衝動買いをしてしまう
・会議中に不用意な発言をしてしまう
・周りに相談せずに、独断で重要なことを決めてしまう
・衝動買いしてしまう
・言いたいことを我慢してイライラする
・ささいなことでもつい怒ってしまう
・衝動的に、人を傷つけるような発言をしてしまう
不注意
・忘れ物、なくし物が多い
・会議や仕事に集中できない
・人の話を集中して聞けない
・自分がやりたいことや興味のあることに対しては集中しすぎて切り替えができない
・仕事などでケアレスミスをする
・仕事の締め切りに間に合わない
・部屋が片付けられない
・家事や金銭の管理が苦手
・時間管理が苦手
・外出の準備がいつも間に合わない
・仕事や作業を順序だてて行うことが苦手
・約束を忘れてしまう
・約束の時間にいつも間に合わない
ADHDには以上のような症状がみられますが、ただ、こうした症状があるからといって、ADHDであるとは限りません。ADHDに似た症状を示す障害は他にもあるため、最終的な診断をくだすためには、他の障害や病気ではないことを確認する必要があります。また、ADHDに他の障害や病気が合併していると、ADHDの症状が見極めにくくなったり、治療効果や将来に影響を及ぼしたりする可能性があるため、合併症の有無も適切に診断する必要があります。
ADHDの原因
ADHDの原因が「親のしつけの悪さ」にあるといわれることがありますが、それは大きな間違いです。ADHDの発症には、遺伝的要因、出産時に生じた障害などによる脳の形態学的な異常、脳内の神経伝達物質のバランスの乱れなどの機能異常、環境的要因などが複雑に絡み合っていると考えられますが、詳しい原因はまだわかっていません。
前頭前野の関連
自分の注意や行動をコントロールする脳の働きは、前頭前野とよばれる大脳の前側の部分で調節されます。ADHDの方は、この働きにかたよりがあると考えられています。
神経伝達物質の関連
また、脳の神経伝達物質(脳内の神経細胞の間で情報をやりとりする物質)であるドパミンやノルアドレナリンの働きがADHDの方では不足気味であることがわかっています。 これらの神経伝達物質の機能が十分に発揮されないために、ADHDの症状である不注意や多動性があらわれるのではないかと考えられています。
ADHDの治療
ADHDの診断について
周囲の理解や環境が整っている場合、ADHDの症状がその人の個性として捉えられ、大きな問題はなく社会生活を送れますが、一方で、大人になるまで専門家による治療を受けていなかったり、周囲の理解がない場合は、どれだけ注意していてもミスを繰り返してしまったり、そのことで周りの評価が下がり、自分は能力がない人間だと思ってしまいがちです。
ADHDを持つ大人は、社会や家庭での生活の中で、多くの困難を抱えています。思うようにいかない日々を過ごすうちに、気分が落ち込んだり、能力以下の自己評価をしてしまうことがあります。
ADHDの診断は、ADHD治療の第一歩です。自分の特性を理解し、生活を見直すことで悪循環から抜け出し、障害をもっていても健康な人と同じように日常生活や社会生活を送れるようになることを目指していきます。
診断のみおよび検査のみをご希望の場合、WAIS-Ⅲなどの複雑な検査は自費になることがあります。
ADHDの治療について
ADHDの治療には大きくわけて、「薬物療法」と「心理社会的アプローチ」の2種類があります。まずは、障害をもっていても健康な人と同じように日常生活や社会生活を送れるようになることを目指していきます。あきらめずに根気よくケアを続けていけば、症状をコントロールでき、他の人たちと同じように日常生活、社会生活がおくれる可能性があります。その積み重ねで、本人の成長とともに病気が治る可能性もあります。
ADHDの治療においては、その人の症状をよく見て、いかに有効な治療プログラムを組むかが重要となります。よって、本人とご家族、医師、臨床心理士、ソーシャルワーカー、治療に携わるさまざまな人々が協力して、連携して取り組むことがとても大切になります。治療を始めても、すぐには変化を感じることができないかもしれませんが、徐々に症状が改善し、悪循環がなくなり、よいサイクルがまわりはじめると、少しずつ成功体験を積み重ねることが増えてきます。
心理・社会的療法
ADHDの治療ではじめに行うのが「環境調整」です。これは、本人が自分の特性を理解し、困難の少ない暮らし方や生活環境・人間関係を見直すことなどを含みます。
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暮らし方の見直し
- 記憶しやすいように、指示は短くわかりやすく出してもらう
- 言いたいことは、時間をおいてよく考えてから、人に伝える
- 計算や書類作成など苦手な事は、誰かに補助をお願いする
- 失敗したことの原因を考え、繰り返さないように注意事項としてメモする
- 困ったときは家族や友人を頼り、自分ひとりで抱え込まない
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生活環境の見直し
- 集中できない時は、テレビの音量など妨げになるものをとりのぞく
- イライラした時には、一人になれる時間をつくる
- 道具(メモ帳や携帯電話のアラームなどの)をうまく活用する
- 予定は共有ボードに書き出して、家族に一声かけてもらえるようにお願いする
- 出かける際に必要なものは、置く場所を決めておいて、必ずそこに置くようにする
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人間関係の見直し
- 周りの人間に自分の特性を説明し、何度も注意してもらえるようにお願いする
- 作業の締切が近くなったらリマインドしてもらえるようにお願いをする
- 自分を過信して安請け合いせず、必ず相談してから返事をする
以上のような環境調整の他にも、社会のマナーやルールを守り、対人関係を良好にするためのスキルを習得する「ソーシャルスキル・トレーニング」や、ものの考え方や受け取り方などを見直して適切な行動につなげる「認知行動療法」なども行います。
薬物療法
ADHDの原因はまだ明らかではありませんが、脳内の神経伝達物質「ドパミン」や「ノルアドレナリン」が不足することで症状が起こるといわれています。成人期におけるADHD治療では、主にアトモキセチンとメチルフェニデート塩酸塩という成分が入ったが使われます。どちらも脳内の神経伝達物質であるノルアドレナリンやドパミンの不足を改善する働きがあります。どちらも、服用している間はADHDの主症状を抑える効果があり、ADHD治療薬として18歳以上の人にも承認されている薬です。
自分を見つめなおす
ADHDがある人は、自分を冷静にみることが苦手なケースが多いです。「できると思っている事」と「実際にできていること」に開きがあり、それが自信喪失の一因になっています。
常に、1日を通して等身大の自分をみつめることが大切です。まずは現実をみつめ、その後、自分を自主的に見つめて対策を図る癖を付けましょう。周囲の人と連携体制を築くと、1日を通した問題点に気づきやすくなります。なにもかもできるようにする必要はありません。ありのままの等身大の自分をみつめて、「今できている事」を自己評価し、良い面を広げていくようにしましょう。そして、一人で抱え込まず、お気軽にクリニックにご相談下さい。