【抗うつ薬の目的・効果】
これまでの研究から、うつ病には脳の中にあるセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンが影響していることが明らかになっています。これらの脳内神経伝達物質のバランスの乱れを整えるために、抗うつ薬による薬物療法が多くの場合で行われます。
【抗うつ薬の効果が現れるまでの時間・平均的なうつ病の治療期間】
多くの抗うつ薬では、効果が出始めるまでに1~2週間はかかります。その間に副作用が生じる場合もあります。
また、うつ症状が落ち着いたとしても、最低6カ月間は再燃しやすいので治療を継続したほうが良いと言われています。症状が落ち着いた薬の量で6カ月ほどは続け、減薬しながらも1年から2年程度は抗うつ薬を続けたほうが、再発リスクが少なくなると考えられています。したがって、2年間ほどは治療を続ける方が多いです。
一見すると症状が軽度に見えるうつ病やうつ状態であっても再発する危険性はあるため、自己判断で治療を中止するのではなく、主治医と相談した上で治療を終了することが大切です。
一方で、再発を繰り返している場合は、維持療法として治療を続けることが推奨されています。3回以上の再発歴のある人には、「年単位で服薬を続けて再発を予防すること」「少量でも続けておくこと」で、再発した場合でも治療期間が短く済むことが明らかになっています。
【うつ病治療に使用される主な薬の種類】
抗うつ薬には、SSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬 などがあります。
加えて、お困りの症状に合わせて抗不安薬や睡眠導入剤、漢方などが使われることもあります。同じうつ病への治療だとしても患者さんによって合う・合わない等があるため、処方される薬は違い、治療段階やうつ症状の違いによっても薬の種類や量が変わってくることもあります。
【うつ病の薬の副作用】
抗うつ薬の服薬によって、副作用が見られることがあります。
- SSRIやSNRIの副作用
- 倦怠感
- 消化器症状(吐き気、口渇、便秘、食欲不振など)
- 精神神経症状(傾眠、めまい、頭痛、不眠など)
- 性機能障害 など
- 三環系抗うつ薬
- 口渇
- 便秘
- 倦怠感
- 排尿障害 など
- NaSSA
- 傾眠
- 体重増加など
が知られています。
副作用を感じると「薬をやめたい」と感じることは自然なことです。副作用の種類によっては1週間ほどで落ち着く症状があるため、服薬の中断を希望する場合は主治医と相談していくことが大切です。
【自己判断でうつ病の薬の服薬を中止すると?】
うつは、症状が消えても6ヶ月ほどは再発しやすいと言われています。そのため、症状が落ち着いたことから服薬を自己判断で辞めてしまうと再発する可能性が高まります。軽快した状態でも6ヶ月ほど服薬を続け、その後1年ほどかけながらゆっくりと薬の量を減らしていくことが再発防止としては大切です。
また、薬の種類によっては急に断薬してしまうことで、離脱症状が見られることがあります。離脱症状としては、身体症状(めまい、頭痛、吐き気、倦怠感、耳鳴りなど)や精神症状(イライラ、ソワソワ、不眠など)が挙げられます。
【市販のうつ病の薬と心療内科/精神科で処方する薬の違い】
うつ治療のための薬は市販では購入することができません。うつ病の治療で使われる薬は、不適切な使用によって「うつ状態の悪化」「強い副作用」などが見られる場合があります。そのため、医師の処方箋がないと購入ができないようになっています。
漢方や精神安定剤の成分に近い薬がネット通販等でも購入できる場合もありますが、うつ病を疑われる症状がある際には、精神科/心療内科を受診し、まずは相談した上で「服薬するかどうか」「どのような薬を服薬するか」を決めていただいた方が良いと思われます。
【睡眠薬以外のうつ病の薬と併用することのある薬】
うつ病を改善するために抗うつ薬だけではなく、その方の困っている症状に合わせたその他の薬が処方されることがあります。以下の薬はうつ病治療に使われる抗うつ薬以外の代表的な薬です。
☆抗不安薬
・不安や緊張が強いと十分に休養が取れないため、抗不安薬を使うことがあります。また、今の生活に対する不安が強いことで強いストレスを感じ、うつ状態になっている患者さんにも処方されることがあります。
☆抗精神病薬
・抗うつ薬の効果を向上させることを目的に抗精神薬が使われることがあります。代表的なものとして、スルピリド、リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾール等が挙げられます。
☆漢方
・抗うつ剤の効果を増強、軽度のうつ状態の治療を目的とする場合には漢方薬が使用されることがあります。また、抗うつ薬への抵抗感が強い方の治療開始時に使用されることもあります。代表的なものとしては、半夏厚朴湯、抑肝散、五苓散などが挙げられます。患者さんの症状や体の状態に合わせた処方がされます。
また、「うつ状態が見られる=うつ病」と言うわけではありません。気分が上がったり下がったりを繰り返す“双極性障害”によってうつ状態が生じている可能性も考えられます。双極性障害の場合は、抗うつ薬ではなく双極性障害に合わせた薬が処方されます。代表的なものとして、バルプロ酸ナトリウム、炭酸リチウム等が挙げられます。
【うつ病の薬をのむと太る?】
種類によっては副作用として体重が増える場合があります。また、抗うつ薬の服用に伴いうつ症状が改善し、その結果として食欲が改善され、体重が増える場合もあります。詳細はまた別の記事にて紹介させていただきます。
【薬を飲まずにうつ病の治療は可能ですか?】
疾患や症状の程度によっては、薬の服用はなく、環境調整や心理療法によって改善が見られる場合もあります。しかし、患者さんの症状の緩和を考えると、薬物治療が第一選択になる場合が多いと思われます。
また、服薬を急に中断すると、薬の効果によりうつ状態が落ち着いていた体が急激な変化に耐えられずに不調になることや、中断によって病気がより悪化する可能性があります。