・認知行動療法とは?
認知行動療法とは、自身の考え方や行動の癖に“気付き”“見直す”ことで、問題やストレスへの対処方法を身につけていく心理・精神療法のひとつです。
方法としては、まずはご自身のストレス要因を探っていきます。認知行動療法では、ストレスやしんどさを環境要因と個人要因の両面から整理していきます。
つまり、どのような状況や出来事に対して「自分はどんな風に思ったか」「どのように対応したのか」の関係性を見ていきます。
わかりやすくまとめたものが、下の図です。
これは、認知行動療法モデルとも言われ、図にすることで、環境要因と個人要因の相互作用をみていきます。例えば、状況に「彼からのメールが遅い」ことを挙げたとします。
その状況に対して、「私のことが嫌いなのかな」と思い「不安」になり、胸がどきどきと「動悸」が現れます。そうして不安に耐えられず「彼に何度も電話をかける」ことをしました。「彼からのメールが遅い」という状況は、個人の「不安」などの反応に影響を与えていることがわかります。一方で、「不安」になった時「電話をかける」行動を続けると、彼の方は嫌気がさし、更にメールをするのが遅くなっていくかもしれません。
このようにストレスというのは、「環境→個人」に影響を与えることもあれば、「個人の反応→環境」に影響を与えることで状況が続いていくこともあるのです。このようにお互いに影響を与え合う関係性を相互作用といいます。
認知行動療法では、この相互作用をみていき、ストレスの悪循環になっているポイントを探して介入していきます。
介入方法は、患者さんと一緒に考えていきます。「認知」つまり「私のことが嫌いなのかな」という考え方にアプローチする方法もあれば、「行動」つまり「電話をかける」行動と別の方法を実践できるようにアプローチする方法もあります。そのため、その都度状況を整理しながら患者さんに合わせた介入方法を一緒に考え、練習していきます。
認知行動療法は、カウンセラーと一緒に実践していくこともできますし、コツを掴めばそれらの技法を使って、自分一人でストレスに対処することができる心理療法でもあります。対処方法を身につけ、“自分の価値を大切にしながら生きていくこと”を目指していきます。
(参考:伊藤絵美『ケアする人も楽になる 認知行動療法 入門BOOK1』医学書院)
・セルフ認知行動療法の効果は?
認知行動療法という言葉が近年話題に取り上げられることが多くなってきました。自身の考え方や行動を振り返ることで、ストレス対処を考え、身につけていくことを目指す心理療法ですが、「認知行動療法って一人で取り組んでも効果は得られるの?」等気になるかと思います。今回は、認知行動療法をどのように受けるのか、効果はあるのかについてお話しします。
まず、認知行動療法(以下、CBT)には、認知再構成、行動活性化、マインドフルネスなど様々な技法があります。これらは全て医学的に効果が認められています。しかし、それらを身につけていくにあたって、5つの形式があります。その形式によって、治療効果の強度が異なります。
強度が高い順に、
①個人CBT(患者さんと治療者が2人で時間をかけて対話などをする)
②集団CBT(患者さん数人と治療者が集まり時間をかけて対話などをする)
③CBTアプローチ(治療者が講義形式で患者さんや家族などに認知行動療法を伝える)
④アシストつきセルフヘルプCBT(治療者の助けを借りながら、ワークシートを活用する)
⑤セルフヘルプCBT(治療者の助けを借りずに、認知行動療法が説明されている本やワークシートを活用する)が挙げられます。
個人CBTでも集団CBTでも医学的に効果が認められている形式で、それ以外の3種は治療のノウハウを活用した生活改善法です。しかし、強度は低いとはいえ、気軽に取り組めるという長所もあります。
もし興味がある方は、ご自身の状態に合わせて、取り組みやすいものから取り組んでいただくか、もしくは医療機関にて相談していただけると良いかと思われます。
・認知行動療法を学ぶのにおすすめの本は?
近年、うつ病や不安障害などに対する有効な心理療法として、認知行動療法が取り上げられることが増えてきました。実際に医学的に効果が認められており、それを取り扱う本も多く出版されるようになりました。
しかし、数が多すぎて選べない…!という方もいらっしゃるかと思います。
今回は、当院のスタッフが選ぶ、おすすめの本を紹介していきたいと思います。
- 『ケアする人も楽になる 認知行動療法入門 BOOK1』(伊藤絵美(2011) 医学書院)
認知行動療法を一般の方が使うことを想定して書かれており、説明もわかりやすい本です。イラストも入れられており、認知行動療法を初めて学ぶ人にも取り掛かりやすいのがお勧めです。「ストレスってなんだろう?」「認知行動療法に興味ある」という方は、まずはこの本から始めてみてもよいかもしれません。
- 『マイナス思考と上手につきあう 認知療法トレーニング・ブック』(竹田伸也(2012) 遠見書房)
認知行動療法の中でも、認知療法に焦点をあてたアプローチを扱っている本です。「認知(出来事に対する捉え方や解釈)」の偏りをキャラクター化したイラストが特徴です。実際に事例を使いながらワークシートの説明をしているため、わかりやすく、実践しやすい本です。
- 『セルフケアの道具』(伊藤絵美(2020)、昌文社)
セルフケアを中心に書かれている本で、100個の多様な方法が紹介されています。認知行動療法には様々な技法がありますが、偏ることなく触れられているところがおすすめです。ほとんどがイラストを入れていて、方法も簡潔に書かれています。そのため、読みやすく、自分にあったものや関心があるものを手軽に試せる点も魅力的です。
最近では、漫画形式のものなど様々な本が出版されています。今回は、特定の症状に特化したものではなく、ストレスとの向き合い方に焦点を当てた本をいくつか紹介させていただきました。症状や目的によっても内容が異なりますので、今回の記事を参考に、ご自身に合う本を見つけていただけたら幸いです。
・認知行動療法のメリット・デメリット
認知行動療法とは、自身の考え方や行動の癖に“気付き”“見直す”ことで、問題やストレスへの対処方法を身につけていく心理療法のひとつです。これまで認知行動療法の概要や技法などをご紹介してきましたので、今回は、認知行動療法のメリット・デメリットについてお話しします。
認知行動療法では、自身の考え方や行動を振り返り対処方法を考えるという特徴から、以下のメリットが挙げられます。
<メリット>
- 副作用が少ない
- 薬物療法と併用することで治療効果が高まる(認知行動療法単体での効果も研究から実証されています)
- 再発防止ができる
認知行動療法では、悪循環に陥らせる自分の癖を振り返り、改善していきます。そのため、薬による副作用のように体に悪影響を及ぼしません。しかし、気分の回復等は薬物療法と同様の効果が得られていることも認められています。ご自身で対処する力が養われるため、もしまたストレスフルな状況になったとしても、体調を崩す前に自分で対処することが可能となります。
一方で、どんな方法でもデメリットがあるように、認知行動療法にも以下のようなデメリットが挙げられます。
<デメリット>
- 即効性がない
- コストがかかる
- 提供する医療機関がない場合がある
- まれに、困りごとや症状によっては合わない場合がある
自分の癖を見つめ直し、改善していくためには時間を要します。また、カウンセリングを受ける場合、保険適用できない場合が多いです。そのため、即効性がなく、時間と費用がかかる点がデメリットと言えるでしょう。また、お近くの医療機関が認知行動療法を扱っていない場合や、ご自身の状態によって認知行動療法ではなく別のアプローチが最適の場合があります。
いかがでしょうか?今回は、認知行動療法のメリット・デメリットについてお話ししました。認知行動療法は、あくまでも困りごとを解決する一つの手段でしかありません。もし、お困りごとがあったり、今ある状態を楽にしたいというお気持ちがあれば、医療機関や相談室に来ていただき、ご自身の状態にあったアプローチを相談すると良いかと思われます。
・認知行動療法はどこで受けられる?
うつ病や不安障害の治療の一つとして、認知行動療法が取り上げられることが増えてきました。実際に、その治療効果も認められています。今回は、その認知行動療法を受けるにあたっての流れをお話ししていきます。
- まずはお近くの精神科、心療内科、相談室のホームページなどで認知行動療法を扱っているかを調べる
どこの医療機関でも必ず認知行動療法を受けられるわけではありません。医療機関によっては、他のアプローチを専門としている場合や、他機関と連携して認知行動療法を提供している場合があります。そのため、事前にホームページで情報を集めるor問い合わせする方が望ましいでしょう。
- 行きたい医療機関に受診する
認知行動療法は、主治医の判断により提供されます。ご自身の状態やお困りごとに応じて適切な治療を提供するため、まずは診察を受けることをお勧めします。認知行動療法に関心がある場合には、診察で相談してみるとよいでしょう。
うつ病や不安障害は、その症状により、生活において様々な支障が起きやすいです。もし、認知行動療法に関心がある方、ご自身のお困りごとを解決したいという方は、一度医療機関に相談してみるとよいでしょう。
・認知行動療法の具体例
前回、認知行動療法では、自身の考え方や行動の癖に“気付き”“見直す”ことを通して、ストレスに対処する方法を考えていくとお話ししました。
今回は、実際に対処する方法として、認知行動療法にある技法をいくつかご紹介します。
☆認知再構成
認知再構成では、気分や感情は、出来事の捉え方や解釈によって異なるという考え方のもとで生まれた技法です。
例えば、挨拶をしたのに返してもらえなかった出来事があったとします。その時に、「相手が忙しそうだし気付いてもらえなかった」と捉える人もいれば、「相手に嫌われているから無視されたんだ」と捉える人もいます。この捉え方を比べた際に、前者の捉え方であれば気持ちにさほど変化がないのに対し、後者の捉え方は、きっと不安を感じたり気分が落ち込んだりするのが想像できるでしょう。
認知再構成では、このように自分を苦しませる捉え方や解釈を見つけ、「その捉え方は本当なのだろうか?」と検証していきます。検証していくことで、視野が広がったり、問題解決の糸口になったりすることもあります。
☆行動活性化
うつ状態になると、何もやる気になれなかったり、先が不安で動き出せなくなったりします。そうすると生活リズムが乱れ、更に気分が悪化していくという悪循環に陥りやすいです。その悪循環から抜け出す技法として有効なのが「行動活性化」です。
行動活性化では、気分を悪化させる行動を見つけ、気分を良くさせる行動に変えていくアプローチです。気分を良くさせる行動とは、趣味など単に楽しい活動を指すだけでなく、掃除をする・書類を整理するなど、面倒くさいけど達成感のある活動も含まれます。ポイントとしては、いきなり掃除をするのではなく、「まずはリビングに行く」「机の上の物だけ片付ける」という風に行動を小さく分解して、自分が今できる行動を探して実践していきます。このように、今自分ができる行動を徐々に増やしていき、気分を回復することを目指します。
☆マインドフルネス
マインドフルネスとは、“「今ここ」での体験に気づき、評価をせずにありのままに受け入れる態度および心のありかた”を指し、そのような状態を身につけることを目指します。
私たちは、普段から様々なことを考えながら生活を送っています。考えることで、先を予測したり、対処をしたりすることが可能です。しかし、時には、その考えによって自分を苦しめることもあります。不安から、上手くいかない未来をシミュレーションしたり、傷ついた思いから、過去の体験を何度も思い返したりします。そうすると、ぐるぐる思考から抜け出せなくなり、本来自分がとりたい行動を制限することもあります。
マインドフルネスを身につけることで、自分を苦しめる考えから距離を取り、本来自分がとりたかった行動をしやすくさせます。レーズンエクササイズや呼吸法などを通して「“今”自分がいまこの瞬間に何を感じているか」など“今”に気付きを向けることを練習していきます。そうして、日常で「あ、今自分は不安なんだな」や「ぐるぐる思考に陥っているな」とハッと気付くようになり、その結果心が穏やかになったり、不安を持ちながらも自分の望む行動がとりやすくなったりします。
いかがでしょうか?今回紹介した技法の他にも、たくさんの技法があります。認知行動療法では、すべての技法の習得を目指すわけではありません。それぞれの患者様の困りごとに応じて、有効な方法をカウンセラーと一緒に考えていきます。もし、困りごとを解決したい、話を聞いてもらいたいという方がいらっしゃいましたら、一度医療機関や相談室を利用してみるのもよいでしょう。